移植師コラム

打つ?打たない?hCGの効果

打つ?打たない?hCGの効果

前口上なしです。
本日はよく聞かれるhCGのお話です。

 

hCGって?
hCGは(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン:Human chorionic gonadotropin)の略称で、メス牛に対しては黄体形成ホルモン様作用を持ちます。

牛飼いの現場では、GnRH製剤より安価なことから同期化処理の起点に使われたり、授精後に第一卵胞波でできた主席卵胞を排卵させて副黄体を作り、黄体からのプロジェステロン濃度を高め、受胎率を上げるのに任意のタイミングで投与されたりします。

黄体強化からのプロジェステロン濃度を高めたい場合は発情日をDay0、授精・排卵日をDay1とするとだいたいDay5~7で打つ方が多いですね。

 

また、短い間隔で頻回投与すると抗体ができて効果が減ずることもあります。

さて、このhCG、私もグループ会社酪農牧場で投与試験をした経験があり、また、農家さんからも投与してみたよーなんてお話を聞き、そこには共通の感覚があります。
それは…

 

ホントに効いているの?
思いますよね。私も時々思います。
効果がよく分からなくて投与をやめる方もいますね。
グループ会社で試験した結果からの結論を言うと、

 

打たないより打った方が良い
乱暴ですが、試験結果を見る限りではこの結論になりました。

 

以下、試験概要と試験結果です。

 

材料:ホルスタイン経産牛(搾乳牛)
期間:2022年3月1日~4月30日までの二カ月間
試験方法:ホルモンプログラムはランダムで、発情日をDay0とし、Day7時に黄体確認後、hCG1500IU:(ゴナトロピン3000(あすかアニマルヘルス)を半量にして)筋肉内注射、当日または翌日に和牛体外受精卵を移植しました。

※Day7時に黄体確認ができなかった場合は試験対象から除外

 

hCG投与区を試験区とし、無投与区を対照区とした。

また、例によって有意差など出していませんので、あくまで「傾向」になります。ご承知おきください。
色がついている場所が試験区・または対照区よりも受胎率が高かったことを表しています。

 

 

試験結果:産次別

図1:hCG投与区

 

図2:hCG無投与区

 

産次別結果です。
全体的に投与区の方が5~8%ほど受胎率が高い結果となりました。
更にそれぞれの産次の中でもホルモンプログラムごとに分けてみました。

 

試験結果:産次別かつプログラム別

 

図3:初産プログラム別HCG投与区

※①WOV:ダブルオブシンク
※②RES:リシンク
※③ECS:E2CIDRシンク(https://nobels.co.jp/nbs/column/column-216.html)
※④HEAT:自然発情

 

図4:初産プログラム別hCG無投与区

 

 

図5:2産プログラム別hCG投与区

 

図6:2産プログラム別hCG無投与区

 

 

図7:3産以降プログラム別hCG投与区

 

図8:3産以降プログラム別hCG無投与区

 

一部ツッコミ所ありますが(投与区の2産のWOVの受胎率が低すぎるとか)、全体的に投与した方がよい結果が出ています。
注意点としては、全て和牛体外受精卵移植しているという点です。後期胚死滅率が高いのはこの辺が影響しています。
流産率等まで調べればまた違う結果が出そうですね。

 

総括
今回の試験結果以外でも、様々な論文を漁ってみましたが、結論も様々でした。無投与と受胎率は変わらなかった、黄体と同側に、第一卵胞波によりできた主席卵胞がある場合に投与すると受胎率の向上が見られた、Day5投与で最もよい結果が出た、などなどです。

 

実運用で考えると、頻回投与で効果が薄れることから、初回授精でのみの投与にとどめて、その初回授精で確実に受胎させるために、乾乳期の栄養充足、分娩後の産褥からの早期回復、子宮環境改善への早期アプローチなどを徹底するのが良いのかなと思います。

過去最長1400文字になってしまいました。ご参考までに。

外谷

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