「消化液」共同研究報告レポート〈下〉 雑草種子は死滅

「雑草の種子や病原菌がメタン発酵の過程で死滅することから、消化液は有効かつ安全な有機肥料」。こう指摘するのは、帯広畜産大学(環境農学研究部門)の梅津一孝教授。2017年に実施したノベルズグループとの共同研究によって、有機液肥「消化液」の機能性についても新たな知見が得られています。研究結果をレポートします。


 

「雑草種子の死滅効果が実証できた意義は大きい」

帯広畜産大学とノベルズグループの今回の共同研究では、バイオガスプラントで生産される「消化液」の有効性や機能性を実証するために、雑草の種子や病原菌の状態が、その生産プロセスでどのように変化していくか、実験を通じて多角的に検証しています。


「メタン発酵には雑草種子の死滅効果を理解してもらうことで、消化液の普及につながれば」と語る帯広畜産大学の梅津一孝教授

堆肥やスラリーを肥料として利用するとき、飼料に含まれる雑草の種子が死滅することなく残存してしまうことによって、畑に雑草がはびこってしまうことが、大きな課題のひとつでした。作物の生育を阻害する雑草の種子は一般に、温度や水分など一定の条件下で発芽しますが、反対に低温や高温、乾燥状態といった種子にとってストレスの高い環境においては、一時的に「休眠状態」に移行し、発芽能力を維持できることによるもので、「エジプトの遺跡で見つかった植物の種子が、長い時を経て発芽した、といった報道が時折ありますが、雑草の種子は、極めて強い生命力をもっています」(梅津教授)。

 

これまで日本国内で運転されてきた先発のバイオガスプラントの事例でも、「消化液」の散布が原因で、雑草が広がる事例は少ないと報告されてきましたが、今回の研究では、種子の残存という課題にフォーカスし、ユニークな実験を実施。梅津教授は「時間も、手間もかかる実験だったが、メタン発酵による雑草種子の死滅効果が明らかにできたことの意義は大きい。消化液の普及につながれば」としています。

バイオマスを収集する専用車両

バイオマスには雑草の種子が混入

 

 


 

バイオガスプラントの「発酵槽」を再現した実験装置

梅津教授の研究チームは、牧草地にはびこる雑草のうち、極めて繁殖力が強く、国内の酪農家が頭を痛めている外来種の多年草、エゾノギシギシの種子を実験対象に選び、バイオガスプラントの発酵槽を模した実験環境を考案するところから研究はスタート。梅津教授は「酪農分野で“史上最強”と言われる雑草、エゾノギシギシがはびこる牧草地は全国に拡大しており、憂慮すべき事態」と指摘します。

 

 

通常、バイオガスプラントの発酵槽の内部では、空気が遮断され、38度前後に保たれた環境下で、バイオマスに含まれる有機物が微生物によって分解され、メタンガスが発生します。このプロセスは「メタン発酵」と呼ばれますが、実験装置では、こうした発酵槽内の条件を再現するため、発酵槽に見立てた容器を準備し、「御影バイオガス発電所」から採取したバイオマスを注いで密閉して保温。その容器内に袋詰めにしたエゾノギシギシの種子を浸して、日数が経過するにつれ、種子の生存率がどう推移するかを調査しました。「小さな種子を一粒ずつ選り分けて比較対照群を準備するなど、研究室のメンバーが総出で実験を進めましたが、苦労のしがいもあって、期待どおりの結果を得ることができました」(梅津教授)。

 

メタン発酵が進む容器内では、30日で100%の種子が死滅

この実験の結果は下表のとおり。メタン発酵が進む容器内にさらさない、無処理の状態では、種子の98.2%が、すぐに発芽できる「無休眠」の状態にありますが、これを容器内で処理すると、20日間経過した時点で種子の47.3%が死滅。さらに10日間処理を継続した30日間経過した時点で種子は100%が死滅しました。

 

 

種子の「休眠状態」には、親株から採取した時点で休眠している「一次休眠」、発芽に適さない環境下で休眠に入る「二次休眠」に大別されますが、この実験では、20日経過した時点で「二次休眠」に入って発芽能力を維持していた種子が、30日経過すると、すべて死滅していることがわかります。

 

メタン発酵による雑草種子の死滅効果を力説する梅津教授

 

梅津教授によると、このように実験で明らかになったメタン発酵による雑草種子の死滅効果が得られるのは、(1)日本の自然環境では通常まれな38度という高い温度に種子が長期間さらされる、(2)バイオマスのメタン発酵が進むプロセスで増加する酵素が、種子の表皮に強い刺激を与えて“攻撃”する、という大きく2つの理由によるものと言います。ノベルズグループが運営するバイオガスプラントでは、メタン発酵の期間を最長で、およそ40日間と設定しており、「消化液の散布によって、バイオマスに由来する雑草の種子が畑で発芽するという心配は、この実験結果をご理解いただければ、払しょくすることができるでしょう」(梅津教授)。

 

大腸菌や腸球菌といった病原菌も激減

さらに今回の共同研究では、原料のバイオマスや「消化液」に含まれる病原菌についても、調査を実施。「御影バイオガス発電所」において、バイオマスや「消化液」のサンプルを採取して培養し、大腸菌や腸球菌など5種の病原菌を検出するものだが、いずれの病原菌も、バイオマスには一定量の生菌が含まれているが、畑に散布する「消化液」の段階では、大腸菌、腸球菌、アシネトバクターの4種は検出されず、残存したカンピロバクターも減少が認められています。「消化液に残測が認められたカンピロバクターも、対数を指標に2前後減少しており、百分の一レベルに激減しており、消化液の安全性の高さが理解いただけるのはないでしょうか」(梅津教授)。

 

 

このように病原菌を検出する一方で、植物の成長を促進するといったプラスの効果があるとされる2種の有用菌についても、サンプルから検出。その結果、いわゆる生物農薬としての効果が期待されるシュードモナスとバシラスのうち、シュードモナスについては残存が検出されなかったが、バシラスについては、相当量の残存が認められました。

 

 

 

ノベルズグループでは、今回の共同研究において、その肥料成分の有効性はもとより、雑草種子や病原菌の死滅効果も認めれた「消化液」をグループ会社の十勝耕畜クラスターを中心に、酪農牧場やバイオガス発電所の近隣畑作農家と連携して、散布、活用していく考え。「十勝管内で稼働するバイオガスプラントでは、生産される「消化液」に対する周辺農家の需要が高まっている」とする梅津教授は、「消化液の有効性は、実際に散布した農家の方には、収量の増加や土壌改良効果といった形で実感されやすく、試験的な散布から本格的な散布へ、さらにより一層効果的な散布方法の確立といったように、段階的に普及していくことが大切」と話しています。

 

共同研究で詳しく調べられた「消化液」=御影バイオガス発電所にて

 

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