eスポーツを教える教諭にインタビュー。北海道十勝発のeスポーツ教育センターとは?
「ゲームで教育はできるんです」と話すのは、eスポーツを授業に取り入れている星槎国際高等学校帯広学習センターの大橋紘一郎教諭。2022年11月にはスポーツを通した教育とまちづくりの拠点「十勝eスポーツ教育センター」を立ち上げた大橋教諭に「教育×ゲーム」について聞きました。
◆本別町出身
星槎国際高等学校で行っているeスポーツ教育とは?
「eスポーツゼミ」を数年前から実施している星槎国際高等学校帯広学習センター。「ゲームで教育?」と思う人が多い中、「eスポーツ×教育」をしっかりと確率していました。
「eスポーツ×教育」を実践していると伺いました。
先ずは自己紹介をしますね。星槎国際高等学校帯広学習センターで教諭をしております、大橋紘一郎と申します。担当科目は理科とeスポーツゼミを担当しております。eスポーツゼミは2018年から「eスポーツ×教育」をテーマに活動し、2022年で5年目となりました。
2022年11月には、eスポーツを通した教育やまちづくり拠点となる「十勝eスポーツ教育センター」を旧商工中金帯広支店(西3南6)に開設しました。センターを運営する株式会社も設立し、私が代表を務めています。そこでは、ICT(情報通信技術)を通じた新たな学びや、イベントの企画運営も考えています。同センターを十勝のまちづくりを発信する場とするつもりです。
会社を立ち上げるほどeスポーツ×教育は確立しているというわけですね。
日本の「ゲーム」へのイメージは正直、良いとは言えませんよね。例えば「引きこもり」もゲームと結びつけて、「引きこもってゲームばかり」と揶揄されます。ところが、本当は違うんです。ゲームをきっかけに多くの人と関わり合うことで、人はどんどん変わるんです。何より、悪いイメージのゲームですが、逆にゲームをしない子どもって少ないですよね?それほど、ゲームは身近なものなんです。だったら、身近なゲームをフックに学べるんじゃないかいと思ったんです。
eスポーツゼミでは、アドベンチャー(月)、コミュニケーション(火)ゲーミング(水)スタートアップ(木)、研究室(金)、というスケジュールです。例えば、アドベンチャーは「ゲーム×屋外」をテーマに、近くにある緑ヶ丘公園で「大乱闘スマッシュブラザーズ」をやるんです。「わざわざ外でゲーム?」と思うかもしれませんが、屋外という条件下で生徒たちは、どうやって好きなゲームをやれるかを考えます。すると「通信環境は?」「充電はどうする?」など、課題が浮かんでくるので、自然と解決する手段を皆で話し合うわけです。大好きなゲームですから、どんどん意見がでますよ。つまりは、目的に向かって考え、学ぶ意識をつけていくんです。かなり実験的なゼミだと思っています。
コミュニケーションという単元は?
コミュニケーションは「ゲーム×発信」をテーマに、自分の好きなゲームをプレゼンテーションして他の生徒へ発信するんです。自分たちが興味関心のあるゲーについて伝えるわけですから、感情や個性が出てきます。eスポーツゼミでは、皆が「好き」をいろいろな角度から学び、伝えることを実践しているんです、
実験的で実践的な勉強方法ですね。
研究室ではゲームを学術的に捉えて、論文のように落とし込むこともしています。eスポーツ関連であれば自由です。例えば、「個人的なeスポーツ体験談」「学校での活動報告」「eスポーツ考察、調査」「大会運営のノウハウ」などなど、eスポーツの広げ方は多種多様です。自分でゲームに関連したあらゆる問題点や課題を引き出し、それを論文形式にして提出する。大学のレポートのような活動です。
大会参加というのは、想像通りのeスポーツ大会に出場する活動です。例えば、league of legendやフォートナイト、マリオカート等の大会に出場し、実際に入賞を果たしている生徒さんもいます。
そして最後が「スタートアップ」です。自分たちがeスポーツ関連で研究したことや課題を発表したのち、それを実践的に取り組みます。実は「十勝eスポーツ教育センター」は、ある女子生徒の研究発表である「eスポーツ施設のデザイン」が基になっているんです。
「十勝eスポーツ教育センター」は女子生徒が「一般的なeスポーツ施設は男性向けで、入りづらい」という思いから、女性でも入りやすい施設をプレゼンし、皆で実現できるかを模索して、こぎつけたんです。
ゲームを通して、コミュニケーションをはかり、そこから生まれた課題を地域に落とし込んでビジネスに繋げるということですね。スゴイです。
eスポーツ(ゲーム)と教育が繋がったきっかけは?
ゲームと教育。一見、無関係と思われてきたなキーワード。大橋先生いわく「2つのキーワードはリンクどころからシンクロしています」。
そもそも論ですが、ゲームと教育をつなげようと思ったきっかけを教えてください。
私が生粋のゲーム好きであるということが大前提です。繋がったというより、はじめから「ゲーム×教育」はそもそもリンクしているという考えを持っていました。
もう少し生い立ちから教えてください。
出身は本別町で帯広畜産大学を卒業した粋道産子です。幼い頃からゲームが大好きで、帯広畜産大学時代には大学祭で、ポケモンバトル大会を主催。その大会の人気が高まりすぎて会場に人が入り切らなくなるんです。それを教訓に「毎月開催」を思いつき、実践しました。そこから十勝管内でゲーム大会やイベントを企画するようになっていくんです。大学時代のイベント企画や運営は大きな学びとなり、コミュニケーション能力や企画力、実践力など社会人で学ぶことを学生時代に経験したことで「まさに教育」と考えるようになったんだと思います。
なるほど!実践大学ですね。
「人生で大事なことはすべて〇〇から学んだ」という言葉を、一度は聞いたことはありませんか。私は、人生で大事なことは、それまでの人生で既に選択して学んでいると思っています。だから自分が好きなこととか、真剣に打ち込んできたことに、もっと自分自身の目を意識的にちゃんと向けるだけで気づけるんです。だからゲームが好きで真剣な人は、ゲームから学べるはずなんです。
例えば、歴史ゲームや海外ゲームをやることで、歴史に詳しくなったり、海外の文化や言語に触れられて文化交流をすることができたりします。もっと深掘りすれば、自分でその歴史についてネットで調べたり、プレイを上達させるために海外のユーチューバーの動画をみて英語力が自然と向上したりするなど、ゲームから一般科目への学びにつながることは多い気がします。
従来の教育は、学校側が提供するサービス(教科の学習や部活)に対して真剣に取り組ませて、そこから気づきを与えるという仕組みですが、eスポーツはすでに生徒が熱中していることがらを通して気づきを与えています。
確かに。ゲームのストーリーやキャラの特性は覚えようと思わなくても、自然と覚えていますね。それが一般科目の勉強につながったら絶対忘れないですよね。
今の子ども達は誰もがゲームを手にとって遊ぶ時代です。そういう意味でも誰しもが学びを得られる可能性のあるツールを持って、しかも親しみやすいんです。活用しない手はないですよね。
eスポーツを教える教師として大事にしていること
まさに新時代の教育を切り開く大橋先生ですが、教育者としての軸は星槎学園の一員だからこそ、一貫していました。
eスポーツを教える理由はわかりました。今度は教育的な視点から教える立場としての想いを聞かせてください。
私は、星槎国際高等学校の教諭です。ここで働いている理由は星槎の教育方針に共感したことが大きいですね。星槎グループ創設者の宮澤保夫先生の言葉に「我々が目指すものは、生徒が主人公になれる学校であり、生徒が主体的に参加できる学校なんです。教育環境作りの精神で子ども達が必要とするものであれば、とにかく何とかして創り出し、彼らに提供するということをやり続けているのです」。
まさに、この考えを具現化したのがeスポーツゼミです。
「生徒たちのために」をeスポーツという手法にして、生徒たちが主人公となる授業にしています。
星槎には、「生徒たちのため」となることに、周囲が全力で応援してくれる風土があります。例え、前例がなく、チャレンジングなことであってもです。eスポーツも学校、生徒、保護者、社会方々の理解と応援があってこそできました。本当に感謝しかありません。
私は、昔から何かを企画することが大好き、イベントを開くたびに見える、みんなの笑顔が原動力でした。星槎の教育方針に出会い、自分の考えとシンクロしたからこそ今があるんです。子どもたちが求める環境を創るのが私の使命だと思っています。
確かに今回の十勝発のeスポーツ拠点も、大橋先生が行っているゼミも、一般的な塾みたいに授業を受ける場と言うよりは、生徒が自ら楽しく学んでいく環境を作っているような感じがします。
生徒に無理やり何かをやらせたり、強制することは絶対にしません。もちろん高校の先生として一般科目の授業もしています。それだけでは足りない部分を教えたいと思ったからこそ、星槎で教鞭をとっているんです。
生徒が義務感からではなくて、自ら学びを享受して成長していく環境を我々が作ってあげて、それを繰り返していくうちに、生徒たちは自ら自信を持ち、新たな学びを得ようと努力するんです。そういう意欲が湧いてくる授業(環境)を創り続けることが学びの好循環となるのです。
学びの好循環、素敵な言葉ですね。
あとは「失敗しても大丈夫」ということを言い続けています。そもそも失敗しない人間はこの世に存在しないですよね。子どもも大人も皆が失敗を繰り返しています。人は失敗することで学び、成長できるんです。
星槎国際高等学校の生徒さんが生き生きとして表情で、授業を受けている理由がわかった気がします!
ここ大事なので、もう一度言います。「生徒のパフォーマンスを最大限に引き出すのが私の役目です」。
「十勝eスポーツ教育センター」は次世代型教育施設
「十勝eスポーツ教育センター」が11月にオープン。大橋先生は施設を学外で運営することによって十勝の地域活性化に繋げたいと考えています。
十勝eスポーツ教育センターは、eスポーツを学校のゼミだけではなくて外に広げることで何が生み出されるのですか?
ずばり、十勝の「次世代型教育施設」になることを目指しています。具体的には、ゼミと同じようにゲームを通じて、ICT教育と社会につながる学びの場とします。
例えば、プログラミング教育や動画作り教育はもちろんなんですが、せっかく、学外でやるのであれば、たくさんの人とつながる場でありたいと思っています。具体的には小中学生を対象にゲームから学びへとつながる塾を開講したり、社会人のゲーム好きの人がセンターに足を運んでもらえるような居場所づくりにも力を注いでいこうと思います。
学生だけではなくて、社会人や十勝の人々の交流の場にするわけですね。
若い世代と社会とつなぎ合わせるのに、ゲームはうってつけです。30代、40代、50代の方々もファミコンや、今はスマホゲームに夢中になっている人もいるでしょう。世代間を超えるツールとしてゲームは最適なんです。
先日、十勝に住んでいる60代の方から「60代でゲーム好きな私でもこのeスポーツ拠点は利用できるのでしょうか?初心者でも参加可能ですか?」と質問をいただきました。答えは「YES」です。
皆さん、ぜひ来てください。好きなことへの可能性は無限大です。eスポーツが教育と地域づくりの両方を担えるようになると確信しています。新たな賑わいを作るのひとつのきっかけが、十勝eスポーツ教育センターです。
応援しています!オープンしたらぜひ足を運ばせていただきますね!
プロフィール
大橋紘一郎|KOICHIRO OHASHI
星槎国際高等学校 帯広学習センター 教員(理科)/eスポーツディレクター
株式会社十勝eスポーツ教育センター 代表取締役
帯広畜産大学畜産学部在学中の2012年に家庭教師の会社Chixyを開業。2013年からNPOすきっぷにて子供の居場所づくり/生活困窮者支援事業に従事。2015年星槎国際高校にて教員として、理科を中心に数学・哲学・eスポーツの授業を担当する。2020年からは北米教育eスポーツ連盟のフェローとして、全国の学校関係者向けにeスポーツを利用した授業カリキュラム提供等を実施。2022年9月に株式会社十勝eスポーツ教育センターを設立する。eスポーツ×教育を柱に、若者がやりたいことを実現するための環境づくりを実施していく。
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創業以来、北海道・十勝を拠点に、持続可能な農業経営を追求しているノベルズグループでは、現在、酪農牧場、肉牛牧場(肥育牧場、育成牧場)で正社員を募集しています。北海道内で12牧場、山形県(酒田市、最上町)で3牧場を経営しており、各牧場では異業種&移住転職を果たした仲間が、数多く活躍しています。業界未経験の方、移住先での仕事の選択肢を検討中の方は、気軽にご相談ください。「ノベルズウェーブ」ではそんな皆さんに役立つ情報を提供するほか、「ノベルズグループ採用サイト」では、現在募集中の求人情報を紹介していますので、併せてご参照ください。
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