田舎暮らしは、ここでしかできない体験にあふれている。人の少ない十勝に不便さはない~写真家・岩崎量示さん
北海道らしいのは道北と道東
「あと2、3年で崩壊する」。写真家の岩崎量示さんがタウシュベツ橋梁の写真を追い続けるようになったのは、この言葉がきっかけでした。
岩崎さんは埼玉県出身の42歳。東京の有名私立大学に入学し、「将来は普通のサラリーマンになるものだと思っていました」と照れくさそうに話します。母親の実家が北海道の室蘭市で、幼いころから家族で何度か訪れており「北海道はまるっきり無縁だったわけではなく、気候や風土については、何となく感じ取っていた」そうです。
大学を卒業しましたが、就職は決まっておらず、学生時代から一人旅で訪れていた北海道にしばらく暮らしてみたくなり、2002年の夏には上士幌町糠平のユースホステルで3カ月間、住み込みでアルバイトをしました。「一口に北海道といっても広く、さまざまな景観が広がっている。本州の感覚では北海道の中で北海道らしいのは北部と東部です」と自らの視点を説明します。
歴史遺産でありながらユニークな形状。魅力的な橋梁
上士幌町(人口4943人、1月末現在)は道東・十勝の北部に位置し、糠平はさらに上士幌の北部、大雪山国立公園内にあり、温泉と糠平湖(人造湖)とスキー場のある観光地です。タウシュベツ橋梁は糠平湖を造成する際に、国鉄の路線が変わり、使用されなくなりました。ぬかびら源泉郷の周辺に点在する旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群の中でも、特に代表的なコンクリートアーチ橋です。
ダムの水が少ない1月ごろから凍結した湖面に姿を現し、水位が上昇する6月ごろから沈み始め、8-10月ごろには湖底に沈みます。ただし、その年の雨量など、複数の要因により時期は毎年変動しています。このように、季節によってその姿が見え隠れするアーチ橋はここだけで、「幻の橋」といわれる所以です。また湖面の水位により、アーチの半円が湖面に映り出され、眼鏡のようにみえることから「めがね橋」の愛称で親しまれています。
極寒の温泉街で初めての越冬
岩崎さんはユースホステルでアルバイトをしていたときに、橋の存在を知りますが「当時はそれほど思い入れがなかった」と振り返ります。
2005年7月には、本格的に移住するつもりで同じ糠平にあるペンション「森のふくろう」で住み込みのアルバイトを始めました。北海道で寒い地域と言えば陸別町、幌加内町、江丹別町、旭川市・・・など、多くの市町村が知られていますが、糠平も決して引けを取りません。北海道内のアメダス地点で2020年の年平均気温がもっとも低かったのは、上士幌町のぬかびら源泉郷でした。
岩崎さんは北海道で本格的に暮らし始めて最初の冬を、温泉街にあったかつてのスナックの2階に間借りして越しました。「新しいFFストーブだったが、ストーブをつけていても室内は氷点下。寒くて何度も夜中に目が覚める。初めての経験でした。北海道の人はみんなこんな感じで冬を越しているのかと驚きました」とすさまじさを語ります。しかし、「北海道の中でも最も寒さが厳しい糠平で無事に冬を越せた、というのが逆に『もう寒さは怖くない』という自信につながった」そうです。
記録写真を残さなければならないという使命感
ユースホステルのヘルパーの仕事は朝食が終われば、夕方まで自由な時間があります。当時は原付バイクで動ける範囲で、空いた時間に近隣を散策していました。その中に「タウシュベツ橋梁」があったのです。地元の人に「凍結と解凍を繰り返し、コンクリートがかなり劣化している。もってもあと2、3年。近い将来は姿を消すだろう」と言うことを聞いて「これは今のうちに自分がしっかり写真として記録しなければならない」という使命感に駆られました。以後、夏に湖面に沈んでしまう時期を除き、週に3、4回、撮影に足を運びました。「糠平に住んでいるからこそ、天候を見ながら、これだけ頻繁に通うことができた」と田舎暮らしの優位性を語ります。
ドローンで撮影の領域広める
現在は隣町の士幌町に引っ越しましたが、それでも橋梁まで小一時間で着きます。3年前からはドローンで上空からも撮影ができるようになり、「湖面に沈んでいる状態でも記録としては貴重なので、最近は季節を問わず、通年で撮影が可能になった」と撮影の領域を広めました。
アイスバブルはメタンガス
さらに糠平湖の被写体は橋梁だけではありません。「アイスバブル」と呼ばれる湖底から噴出するメタンガスの気泡が氷に閉じ込められている様子も撮影できます。深みのある透明感の中に大小さまざまな気泡が散らばっているユニークな写真を撮影できるのは数少なく、近年はこれを目当てに現地を訪れる人も増えました。
富士フイルムフォトサロンで写真展
岩崎さんはこれまでに写真集を7冊発刊。エアドゥやANAの機内誌にも写真が掲載されたほか、2013年の東京を皮切りに、札幌、大阪の富士フイルムフォトサロンで写真展を開催し、十勝の魅力、タウシュベツ橋梁を全国に発信しました。富士フイルムフォトサロンはクオリティの高い厳選された写真家の作品を展示するギャラリーで、個展をやりたくても、そう簡単にはできるものではありません。訪れる人もまばらだったタウシュベツ橋梁は、岩崎さんの写真によって、プロ・アマ問わず、多くの写真家の格好の被写体となり、さらには上士幌町の貴重な観光資源となったのです。
田舎でも不便なし。住みよい北海道の十勝
岩崎さんは十勝について「すべてがいい。人は少ないし、かといって必要なものはそろっており、不便さは感じない。寒いけれど降雪が少なく、冬には晴れる日が多い。北海道の良さが十勝に凝縮されている」と絶賛。「昨年、久しぶりに埼玉の実家に帰って一週間過ごしたが、人が多くて、つくづく自分には合わないと思った。はやく十勝に帰りたかった」と十勝への愛着を語ってくれました。
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