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上海国際映画祭で入選した映画監督が田舎暮らしを選び、帯広にUターンした理由
2021年6月に開かれた「第24回上海国際映画祭」の短編部門で日本人として唯一入選した逢坂芳郎監督が田舎暮らしを選び、帯広へUターン。長く米国と東京に拠点を置いた監督がふるさと十勝を選んだ理由とは……。
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◆42歳
◆幕別町出身
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映画監督/映像作家への道は高校時代からはじまりました
逢坂さんの映像作家としてのスタート地点は、高校時代に親のビデオカメラで学校生活を撮影・編集した時代に遡ります。
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「第24回上海国際映画祭(2022年6月)」で日本人として唯一の短編劇映画部門での入選おめでとうございます。短編映画「リトルサーカス」観ました。
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ありがとうございます。新型コロナは世界中に影響を与えました。「リトルサーカス」の舞台のカンボジアも例外ではなく一様に影響を受けていました。そんな状況のなかで、この映画では、カンボジアの地方都市にあるサーカス学校の少年たちをクロースアップしています。
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コロナ禍でサーカスが閉鎖されて収入が途絶えてしまう子どもたち。しかし彼らはそれでも前を向き、一生懸命に毎日を生きている姿が映し出されていました。
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映画はフィクションですが、出演者の多くは実際のサーカス団のメンバーや町の人たちです。
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ルポルタージュに近い映画なんですね。生活が困窮しても子どもたちが健気に生きている姿を世界に届けた功績は大きいと思います。観た人たちに元気を与える映画でした。ありがとうございます。
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閑話休題。
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逢坂さんは十勝幕別町出身ですが、小さな町からなぜ映画を撮ろうと思い、米国留学へと進まれていったのでしょうか。
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きっかけは、柏葉高校に通っていた頃に遡ります。親のビデオカメラを持ち出して何気ない学校生活を映しては自宅で編集し、それを皆に見せるが楽しかったんです。ただし、編集といっても8mmビデオですから、ビデオデッキと繋げてダビングボタンとストップボタンを“ガチャンガチャン”と押すような超原始的な方法でしたが ……。
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普通、ビデオは撮って流して終わりですが、なぜ編集して映像作品にしようと思ったのですか。
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観た人たちが喜んでいる姿をみて楽しませるという快感を得たからというのが一点。加えて、香港の映画監督ウォン・カーウァイの作品に魅了された影響もあります。「こんな作品作って、皆に見せたい」。だから、撮った映像を編集して作品にしようと考えたきっかけかもしれません。
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ウォン・カーウァイ監督の映画は私も好きでした。『恋する惑星』『ブエノスアイレス』『天使の涙』などですね。俳優の金城武さんがブレイクするきっかけでもあったと記憶します。
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そうなんです。当時、ハリウッド映画以外でアジアの世界的な映画といえばアクションが主流でした。
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うんうん。香港映画といえばアクションでした。ブルース・リー!ジャッキーチェン!ですね。
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ウォン・カーウァイ監督はクエンティン・タランティーノが絶賛したことで、世界的に有名な監督になりました。
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ウォン・カーウァイ監督の影響受けて作品を作っていったんですね。
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さすがに、脚本は書けませんから音楽にこだわりました。とはいえ、編集した映像に音楽を載せるだけですが、それでも、すごくかっこよくなるんです。皆で観ながら「おおおお!かっこいい」と話すだけで当時は楽しかったです。
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映像作品の制作に明け暮れた高校生活だったわけですね。
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はい、そしていつの間にか「自分はアメリカに行くんだ」と勝手に思い込み、そのためにはTOEFLで高得点が必要と思い、勉強をしていました。
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留学を許されたのは、勉強する姿をご両親が見ていて認めてくれたからですね。
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両親には感謝しています。
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夢や目標を叶えるには根拠のない思い込みからとは言いますが、体現されたわけですね。
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はい。アメリカではカリフォルニア州立大学フラトン校に入学し、コミュニケーション学を専攻しました。残念ながら映画の専門的な授業はなく、高校時代の延長線のように地元のサッカーチームのドキュメンタリー作品を制作したり、自主映像作品を作り続けていました。その後、映画学部のある大学で学びたいと思い、ニューヨーク市立大学ブルックリン校に編入し、映画制作を学び学士を取得しました。
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すごい決断力と行動力ですね。
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ニューヨークは家賃も高いので、現地で出会った映画好き5人で家を借りて生活していましたよ。
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まさにトキワ荘!
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そんなすごい人の集まりではありませんが、皆、本気で映像制作に取り組むメンバーでした。
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いよいよプロの映像作家・逢坂としての歩みがはじまったわけですね。
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十勝の魅力を映画で発信。「マイ・リトル・ガイドブック」
ニューヨークでの映像クリエイターたちとの共同生活で、触発と経験を積んだ逢坂さん。ハリウッドを目指すのかと思いきや、日本に帰国することを選びます。
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世界最高峰の映画の舞台であるハリウッド進出ですね。
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映像制作については学べましたし、自負もありました。ただ、自己分析をした結果、当時の英語力ではアメリカの制作会社ではついていけないことが明白でした。仮に現地の日系映像会社に就職しても、仕事の大半は日本のメディアや映像会社の現地取材などで映画制作ができるわけではありませんでした。
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冷静だったんですね。
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当時は商業的な路線には目もくれず、クリエイティブに魅了されていたことも大きいですね。「映画を作りたい」が最優先でしたから。
2005年に本帰国し、東京でフリーランスとして活動を開始。大学時代に作り溜めた映像作品を制作会社のプロデューサーに持ち込み、半ば直談判のような営業をしていました。英語ができたことで、日本に住むアメリカ系の制作会社から仕事をもらい、食い繋いでいたのを思い出します。
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下積み時代の到来ですね。
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クリエイターとしては、頂いた仕事でお金を稼ぎ、ミュージシャンらと映像舞台を作ってクリエイティブを磨いていました。約10年間は、仕事で稼ぎ、自主制作作品に充てるというようなスタンスでやっていました。
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そして、いよいよ映画監督・逢坂芳郎の誕生ですね。
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出会いは唐突でした。東京で生活するなか十勝出身者の会があると誘われ、行った先で出会ったのが、現在、帯広でホテルヌプカを運営する言語史の柏尾哲哉さん(帯広市出身)です。
柏尾さんが語ったのは「十勝に新たな観光モデルをつくりたい。そのために地元帯広に会社を立ち上げる。そして、国内外から多くの旅行者が集まるためにホテルを作る。呼び込むために十勝観光の魅力を世界、とりわけアジアへ伝える映像がほしい」と熱く頼まれたんです。
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青天の霹靂か、あるいは地元十勝を想う強さが呼び寄せた必然でしょうか。
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偶然です。ただし、十勝への想いが強いことは本当です。帰国後、多くの仕事をするなかでも十勝や北海道をイメージした映像を取り入れたり、「十勝で映画が撮れたらいいな」と漠然と描いていたことも事実です。もしかしたら、知らずに想いを口にしてから声をかけられたかもしれません。
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いずれにせよ、映画監督・逢坂芳郎が生まれたわけです。
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そうですね。私もアジアの熱気に惹かれていたこともあり、十勝と台湾をテーマにした短編映画を制作しようという流れになっていきました。ストーリーは、主人公の台湾人女性が十勝管内各地を巡りながら人々との交流を深め、観光を超えた価値に気づくというもの。
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映画『マイ・リトル・ガイドブック』ですね。
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制作資金はクラウドファンディングを利用して集めましたし、多くの地元の方々の支えがあって完成した作品です。柏尾さんも十勝を離れて都会で暮らしているからこそ、気づくことのできる価値を表現してほしいと言っていましたし、私自身もそのつもりでした。制作に携わった皆の気持ちがひとつになってできた作品です。
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私も観ました。住んでいると気付けない価値が少しずつじんわり伝わり、最後には大きなうねりとなって“きづき”の大切さを感じました。
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田舎暮らしでも映像作家として活動できます
映画監督として地元十勝を描くという2つの夢(目標)を叶えた逢坂さん。映画『マイ・リトル・ガイドブック』を経て、活動の幅が広がっていきます。
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映画制作後、地元十勝では「マイ・リトル・ガイドブック」の監督というイメージが強まりました。
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恥ずかしさもありますが、嬉しいですね。ふるさと十勝を題材に、十勝内外のすべての人が感じ取れる“きづき”というメッセージが伝わったことは、私にとっても大きな経験となったのと同時に、考え方や今後の作品の方向性をも示してくれました。
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アジアの熱を知ったことも大きいのではないでしょうか。
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そうですね。近年はアジア取材も増えて感じ方や捉え方にも変化が生じています。
日本は、我々が生まれた頃は、すでに高度経済成長を遂げて、多くの物や人、チャンスを得られる環境が整っていました。そのうち、東京一局集中が強まり、「田舎(地方)ではできない」や「東京でなければ無理」という価値観が生まれていったと思います。
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成長するには、決めつけちゃいけない!ですね。
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今はインターネットの普及と映像技術や機材が誰でも扱える時代となりました。映画はどこでも撮れます。編集もどこでもできます。仕事もいつでも好きな時にできる時代が到来しました。田舎暮らしであろうと都会暮らしであろうと、関係ありません。必要なのは、撮りたいと想うインスピレーションと具現化する行動力です。
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Uターンしたもう一つの理由は十勝の映画作り
田舎暮らしでも都会暮らしでも、映像作家として活動ができることに気づいた逢坂さん。拠点をふるさと十勝にUターンという形で移します。その理由はもう一つありました。
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2020年に東京から十勝帯広にUターンしました。
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正確には、Jターンですね。私の故郷は帯広の隣町の幕別町です。
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話の辻褄を合わせるために、生活圏は同じということでこのままUターンでいかせてください。なにより、Uターンの記事を書かなくてはならないものですから……。
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大人の事情ですね。いいですよ。
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ありがとうございます。帯広にUターンした理由は、どこでも映像作家として活動ができるという判断意外にもあるのですか。
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カンボジアの映画は、自分でお金を集めて製作したいわば自主映画です。この経験で住む場所にこだわらずとも映像作家として活動できることを証明しました。
そうであれば、次の目標は前回のような短編ではなく、十勝を舞台にした長編映画を作りたいと思ったんです。長編作編を製作するためには、地元十勝をもっと知らなくては深いストーリーは描けないし、撮れないと考え、自分で腰を据えて住みながら、今一度、十勝を見ていこうと決めたからです。
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なるほど、住んでいた頃は学生で視野も行動範囲も狭い、十勝のほんの一部しか知らないわけです。大人の生活、社会を知るには住むしかありませんね。
おかえりなさい!逢坂さん。
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ありがとうございます。まさに出身者なのに故郷をまだまだ知らないのです。
次回は、外からみた十勝と内からみた十勝の両方を知る映像作家として表現をできたらと思っています。皆さん、ご協力よろしくお願いいたします。
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