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酪農牧場でみかける牛の個体識別番号、耳標はなんのためについているの?
酪農を知る
公開日:2023年1月27日

酪農牧場でみかける牛の個体識別番号、耳標はなんのためについているの?

牧場へ行ったとき、牛さんの耳に黄色い耳標がついているのを皆さんも見たことがありますか?あれはただの飾りではなく、よく見ると小さな文字で10桁の番号が書かれていて、個体識別番号と呼ばれています。実はこの耳標は牛を国内で管理するにあたって、私達生産者だけでなく、消費者の皆さんの安心安全に繋がる大事な制度のひとつとなっています。今回はそんな牛の耳についている黄色い耳標の秘密について解説していきます。

目次

牛の個体識別番号って?

牛の両耳についている黄色の耳標に記載されている10桁の番号は個体識別番号と言われ、これは牛の戸籍番号のようなものです。この10桁の番号は、インターネットの家畜改良センターの検索サービスの中で調べることができ、その牛が「いつ」「どこの牧場で」「どんな生産者のもとで」産まれて、育てられたのか、や「品種」「性別」まで分かるようになっています。

日本でもマイナンバーカードなどが行政でよく利用されていると思いますが、それと同じことですね。個体ごとに関する情報が全て番号で一元管理されているような形です。

また、枝肉、部分肉、精肉と加工され流通していく過程で、その取引に関わる販売業者、仕入先、小売業者なども記録・保存されます。消費者の皆さんにとって牛を一番身近に感じるのは、スーパーに並んでいる牛肉だと思いますが、その商品パッケージの製品表示の欄を見ても番号が記載されていると思います。消費者の皆さんに安心・安全に食品を購入していただくためにも、このような制度が導入されているのです。

ちなみにこの法律の正式名称は、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」と呼ばれ、BSEのまん延防止を目的に牛トレーサビリティ制度を運用しているものになります。続いては、その制定のきっかけとなったBSEについて少し説明していきましょう。

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牛の個体識別番号ができた背景とは?

個体識別番号の概要について簡単に説明していきましたが、ここで牛トレーサビリティ制度が制定された経緯を簡単に見ていきましょう。一体さきほどのBSEとは一体何のことなのでしょうか?

◆BSEとは?
BSEとは牛海綿状脳症(うしかいめんじょうのうしょうBovine Spongiform Encephalopathy)の略語であり、牛の脳に空洞ができ、スポンジ状になってしまう感染症の一種です。一般的には狂牛病と呼ばれており、1986年に英国で初めて発症が確認されました。

皆さんも「BSE」よりも「狂牛病」という言葉の方が馴染みあるかと思いますが、具体的な症状などを理解されている方は少ないはず。実はこの病気は感染したら、すぐに症状が表に出るのではなく、時間をかけて体を蝕んでいく病気なのです。

牛がこの病気にかかったとしても、感染当初は特段問題なく、飼育することができます。症状があるとしても、声掛けをした時に反応が少し遅れてしまう程度で、最初はBSEだと気づかないことも多いようです。しかし、感染から4~6年後でようやく症状が目に見えて表れてきます。その時は、音や接触に対しての過敏な反応、異常行動、運動機能に関連する部位も冒され、立てなくなるなどの症状を示していきます。

現代の科学では治療法は確立されておらず、感染したら牛は淘汰される以外ありません。また、牛飼いにとって、感染後の症状が遅れて出てくることから、一頭BSEが発症すれば、牧場全体に感染が広がっているかもしれないという懸念があり、絶対にまん延させてはいけない病気のひとつとして、業界全体で予防と対策を徹底しています。

この病気は、BSEに感染した牛の肉骨粉(家畜を処理する際に出るクズ肉、骨、内臓、血液等を加熱処理し、乾燥させて粉末にしたもの)を食べることによって、感染すると言われています。昔より乳量や乳質の向上のために牛のエサにも混入させて使用されており、1990年代に英国ではそのことが原因でBSEが大流行した記録があります。

人への感染も、完全には解明されていませんが、BSEに罹った牛の肉から製造されたキャットフードを食べたネコが感染したとの報告から、人への経口感染の懸念が大きくなっています。

日本では、2002年9月にBSEの検査体制を確立するのと同時に、牛の生産履歴をきちんと管理する必要に迫られ、現在、日本で飼育されているすべての牛に10桁の個体識別番号を付し、食肉処理されるまでその番号が付いてまわる仕組みができました。2003年6月に「牛肉トレーサビリティ法」が成立し、2004年12月以降に食肉処理された国産牛肉には、流通や小売り段階においても個体識別番号が表示されています。

BSEは発症時点では見た目では判断することが難しく、それ故にBSEだと気づかずに市場で取引をされ、別の牧場で判明することも少なくありません。また、牛肉として売り出される場合もBSEだと気づかずにそのまま販売されてしまう懸念があります。トレーサビリティ制度ではそんな取引の全てを個体識別番号で記録・保存することによって、その牛が「何が原因でどこで発症したのか」を徹底的に後追いすることができるようになっています。日本の食肉産業を安心安全だと理解してもらえるためにも、絶対に欠かすことのできない需要な施策だということがおわかりいただけたかと思います。

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牛の個体識別番号の有効的な使い方

◆動産担保融資(ABL)について
これまでの説明で個体識別番号が整備されたことによって、食品業界の安心と安全が担保されてきたことが理解できたとは思いますが、実はそれ以外にも大きなビジネスチャンスにも繋がっています。それは牛を担保とした動産担保融資(ABL)です。

動産担保融資というのは、動産を担保とした融資のことです。通常、融資を受けるときに担保とするのは不動産で、例えば、建物や土地、山林や私道などが挙げられます。持ち出すことはできませんし、登記制度もあるため担保としての権利管理が容易です。

一方で、動産は不動産以外のものを指しますが、担保とすると管理が大変で、ものによっては、一般的な制度が整備されていないことから、自分で一から登記を行う必要も出てきます。ところが、牛の個体識別番号が整備されていれば、そのためのハードルを下げることができるのです。きちんと整備されている制度があり、そこに登録されている動産であれば、牛を担保として金融機関側も融資を実施しやすくなるということです。

畜産業というのは、なにかとお金がかかります。まず牛舎を建設する際に何十億円、重機や大型設備を購入する際も何千万~何億円ほどの資金が必要になってきます。個体識別番号がない時代であれば、品種や血統、飼養管理といった価値基準の情報が全く共有されないので、きっと金融機関からの融資は受けられないでしょう。

前述した通り、家畜改良センターのデータベースでは、飼養地や生産者、品種など様々な個体情報の管理が行われています。そのため、仮に融資先が担保設定された牛を他の牧場に移動させてもすぐに分かるので、管理コストを低く抑えることができます。それ故、個体識別の仕組みが基盤として整備されるようになったことで、いままではコスト面から難しかった新たな投資が行いやすくなったということが挙げられるのです。

◆顧客満足とマーケティングへ視野を広げる

また、牛の場合は必要に迫られて整備した個体識別の仕組みでありますが、IoTや画像認識を活用すればもっと様々なものに応用することができるはずです。そもそもトレーサビリティ制度は、リスク管理の他に、生産者から消費者までの異動フローが全て可視化できるという点で、顧客満足とマーケティング分析も強化できるというメリットがあります。つまり、最終的にどんな消費者が、その牛肉のどのような点に惹かれて購入したのかというのを大きな視野で分析をかけることができます。あらゆるビジネスにおいて消費者の求める製品や商品を提供することが求められている昨今において畜産業界もそれは例外ではありません。ただ、生産するだけでなく、消費者によってより良い牛肉を生産することが必要となってくるのです。

今までの枝肉市場の歴史では出荷した枝肉の評価がどれだけのサシが入っていて、一頭の牛からどれだけのお肉が生産されていたのかということが中心となって、評価基準が設定されていました。ただ、もはや今、飼養管理技術や血統のアップデートにより、約50%の出荷和牛で最高評価のA5ランクの判定をもらうことができています。また、最近では日本でもオージー・ビーフの赤身のあっさりしたお肉が好まれるようになり、今後、日本の枝肉市場の評価基準が変容するのもそう遠くはないはずです。

どのようなターゲットにどのような牛肉を提供するか。もっと市場が複雑化して、生産者と消費者のつながりの多様性が実現されるような事があれば、その時はきっと個体識別番号のデータベースが役に立つことでしょう。そう遠くない未来、「あの生産者のところで育てられた牛肉だから、あっさりしていて美味しい」とか「この生産者の肉はすき焼きに向いている」とか、そういった活用のされ方ももしかしたら行われてゆくのかもしれませんね。

今回は、一度は見たことある牛の耳標について深掘りをしていきました。何気なく見ているものだとは思いますが、実はきちんと意味のあるもので生産者や消費者にも欠かすことができないものだと理解できたかと思います。

牧場スタッフは、産まれたばかりの子牛や耳標が外れてしまった成牛に対してつけるんですが、ベテランの人はパチパチっと一瞬で付け終わってしまいます。頭と耳を固定するのが難しいのですが、やはり慣れている方はすごいですね。

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