酪農牧場のふん尿処理問題!新たな循環型農業の取り組みもご紹介
人間と同じように牧場にいる牛さんも毎日排泄物を出しますが、トイレも下水道もない牛舎で、どのように処理しているのか疑問に思ったことはありませんか?もちろんレバーやボタンを押しただけで、一瞬で排泄物を流してくれる施設はもちろんありません。今回は、牧場の仕事の中でも欠かすことのできないふん尿の処理について語っていきます。
牛のふん尿処理も牧場スタッフの重要なお仕事
牛さんが一日で出すふん尿の量を皆さんはご存知でしょうか?実は、約60kgと言われています。成人男性一人分の重さの糞尿が毎日排出されるとなれば、牛舎も日に日に汚くなってしまいます。放置しておくと、牛の健康や生乳生産の衛生面で非常にリクスがあるので、牧場はどのような規模であっても牛糞を処理する仕事があります。
ですが、実際にふん尿はどのような処理を経て、どのような活用をされていくのでしょうか?
すこし歴史のお話をしましょう。昔は牛糞をそのまま集めて、畑に撒いて肥料にしていました。社会の授業で習った方は多いはず。農耕用や荷物運びとして、一家に一牛という時代が昭和30年代まであり、その頃は役牛と呼ばれていました。
当時は、ふん尿は垂れ流しで、道端に牛や動物の排泄物が転がって虫が湧いていることなんて日常茶飯事だったみたいです。今の私達の生活とは違い、かなり牛と人が密接な関係を築いていた時代だったといえますね。
現在は糞尿をそのまま肥料として使ってしまうと、臭いがひどく公衆衛生の面で好ましくありません。また、きちんと処理されていないふん尿をそのまま畑に撒いても栄養過多の赤潮状態になってします。ですので、糞尿を特別な施設で、人間の生活環境に配慮した形まで処理し、ホームセンターやスーパーに並んでいる堆肥へ近づけることが牧場ふん尿処理の最終目標になってきます。
酪農の歴史に関してはこちらの記事でも詳しく説明しているので、ご覧ください。
ふん尿の具体的な処理の方法とは?
では、実際の糞尿処理はどのような工程を経ているのでしょうか?ある牧場の堆肥処理スタッフの仕事内容を見ていき、堆肥化までの流れを確認していきましょう。
◆牛床出し
堆肥処理スタッフの現場作業で、一番メインの仕事はこちらになります。先ほども話したように一日60kgものふん尿を牛さんは出すので、それが牛床に溜まっていくと、衛生面や牛の体調面で問題が発生する可能性が高まります。そこで定期的に溜まった糞尿を取り出す作業が必要となるのです。
取り出し方ですが、これは牧場によって様々やり方があるようです。例えば、ノベルズグループではフリーストールと呼ばれる牛舎で牛を飼養しているのですが、牛舎直線距離は約150mほどもあります。その長さを手作業で行うのは非常に効率が悪いので、ショベルと呼ばれる大型重機を使用して一気に掻き出していきます。ただ、牛を牛舎の半分側に寄せて柵を移動させたり、大きな音を立てて作業をするので、牛へのストレスは非常に大きいのが懸念点なのだそうです。
また、小規模の酪農牧場の場合は、手作業が中心となります。小規模酪農家で多く利用されている繋ぎ飼い牛舎はその構造上、柵を移動できず、大型重機が牛舎に入れないので、スコップを使って手作業でふん尿をかき集めています。こちらはベタベタなふん尿をすくうのが非常に重労働で力がいる仕事となります。
また、ある程度資金がある牧場では、自動的にふん尿をかき出す施設を導入しているところもあるそうです。スクレーパーと呼ばれる押し出し機械が、牛舎中央の溝までふん尿を落とし、その後ベルトコンベアーで外へ運ばれる仕組みです。大きな重機が入ることもないので牛にストレスはかかりませんし、手作業で掃除をする工数を削減できます。
◆エアレーション管理
大規模な牧場ではおそらくほとんどがこの施設を導入しているかと思います。エアレーションとはブロアと呼ばれる送風設備とドリルのような撹拌機を備えた施設です。
そもそもふん尿が堆肥に変化するためには、ふん尿内の大量の微生物が活発に活動することが必要になってきます。微生物の働きで発酵が生じ、温度が80℃くらいまで上昇。段々とベタベタなふん尿の水分が抜けて、サラサラでパラパラな堆肥へと変化していきます。いわゆる分解者の仕事ですね。
エアレーションは、撹拌と送風で微生物の好気発酵を促進し、温度を上昇させ、分解者が分解を効率良く行える環境づくりをすることができます。完全に発酵が終わった状態だと、臭いも全くありません。腐葉土のようないい香りがします。
ここでのPOINTは温度管理と水分率が重要だということです。単純にエアレーションを使用しても、冬場や雨天時では温度がなかなか上がらず、発酵が進んでいきません。その場合、おがくずや木材チップを別途混合し、水分率を下げた後にエアレーションをかけると発酵もうまくいくそうです。このように天候の先読みをして堆肥の作成をしていく必要があるので、かなり経験と予測が必要な仕事と言えるかもしれません。
◆堆肥をリサイクル敷材や肥料に
エアレーションによって完熟した堆肥は、次の牛床だしでリサイクル敷材として使用されます。牛床だしでふん尿を取り出しても、そのままコンクリート剥き出しの状態で牛さんたちを寝かせるわけにはいきません。人間も寝る時はベットを準備したり、布団を敷くのと同じように、牛さんに対してもしっかり敷料をかぶせてベッドメイキングをする必要があります。リサイクル敷材を使うことによって、敷材を外部の業者から購入する必要もなくなり費用が抑えられます。現在は、飼養規模拡大等による生産コスト増大が大きな課題と言われていますが、酪農家はこういった工夫をしてなるべく出費を抑えながら牛の飼養を続けていくのです。
また、完熟堆肥は、肥料としても使えますので、畑農家や肥料農家へ販売することもできます。だいたい牧場が販売するとなると、軽トラック一台分で1000円から2000円だそうです。ホームセンターで販売しているような堆肥は20kgで1200円くらいなので、それに比べれば破格の安さだと思います。個人でも販売しているところは多いので、家庭菜園をしている方は一度牧場に足を運んでみてはいかがでしょうか?
このように、「牛床だし⇒エアレーションで堆肥化⇒敷材や肥料としてリサイクル」というサイクルでふん尿は処理されていきます。ただの排泄物として捨てるのではなく、それを繰り返し活かす形として循環型農業を体現しているのですね。
ただ堆肥化するだけは物足りない!バイオガス発電の取組みも!
先ほどの説明では、牛床からとりだしたふん尿をそのままエアレーション施設に入れる方法を取っていましたが、こちらは肉牛牧場のスタッフのお話となります。実は酪農牧場では少し処理の方法も違ってきます。それは酪農牧場で出るふん尿の水分率が髙いということが原因です。
生乳という“液体”を生産するホルスタインの方が体から排出される水分が多いので、ふん尿も水分率は10%ほど多いみたいです。本来であれば、一旦、自然乾燥させ、ある程度水分が飛んだらエアレーションにかけるというやり方が一般的ですが、一日一頭当たり60kgも出るふん尿を自然乾燥のみで任せていたらいくら時間があっても足りません。かつ毎日ふん尿自体は牧場から排出されていくので、いかに水分を飛ばす時間を少なくするかが、重要なPOINTとなってきます。
そんな課題を解決するために、バイオガス発電を堆肥化の工程に組み込む牧場も最近は多いようです。バイオガス発電とは、生物を表す「Bio」、とガスをかけ合わせた合成語で、ふん尿の発酵で出る「メタンガス」がタービンをまわすことによって発電される方式です。液体ふん尿の発電処理に特化しており、装置にかけられたふん尿は電気の発電と液肥(消化液)と固形ふん尿の生産へつながります。液肥は、堆肥と同じように肥料に使えますので、畑農家や肥料企業へ販売することができます。ちなみに、液肥は土への吸収が早いので堆肥よりも、作物の成長のスピードを促進させる効果もあるようです。
また、発酵の際の臭いは、発酵槽と呼ばれる空気が入らない気密性の高い装置で行われるため、地域への臭いの充満も抑えられるというメリットもあります。
ふん尿をただの肥料としてのみ循環するだけでなく、そこに電力や液肥と言った付加価値をつけてサイクルを回していくことは、他の再生可能エネルギーにはない画期的な発電方式と言えるでしょう。
いかがでしたか?
酪農が盛んな地域に足を運ぶと、その臭いに驚く方も多いかと思います。実際私も牧場ではたらいている中で、発酵の臭いや、ふん尿にたかる糞虫の存在に嫌悪感を抱く時期もありました。ですが、それも生物の生産の営みから産まれるものであり、地球の環境を維持していく上で欠かすことのできないステップなんだと思うようになってから、受け入れることができるようになってきました。
この記事を読んでくれた皆さんも、私達が消費する牛乳やお肉の裏側には、このような作業が存在していてすべてを引っくるめて、食卓に並んでいることを理解していただければ、生産者としては非常に嬉しく思います。
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創業以来、北海道・十勝を拠点に、持続可能な農業経営を追求しているノベルズグループでは、現在、酪農牧場、肉牛牧場(肥育牧場、育成牧場)で正社員を募集しています。北海道内で12牧場、山形県(酒田市、最上町)で3牧場を経営しており、各牧場では異業種&移住転職を果たした仲間が、数多く活躍しています。業界未経験の方、移住先での仕事の選択肢を検討中の方は、気軽にご相談ください。「ノベルズウェーブ」ではそんな皆さんに役立つ情報を提供するほか、「ノベルズグループ採用サイト」では、現在募集中の求人情報を紹介していますので、併せてご参照ください。
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