放牧酪農をキホンからおさらい!酪農家の持続可能な取り組みについて語ります!
放牧酪農を扱った記事は今回で2回目です。放牧酪農とは、簡単に説明すると、放牧場と言われる広い土地に牛たちを放し飼いし、できるだけ自然のままで牛たちを飼養することを指します。サムネの画像のような、皆さんが「北海道の酪農」や「アルプスの少女ハイジ」の世界をイメージした時の画、と言えばわかりやすいでしょうか。最近では、日本の山岳放棄地などの土地の有効活用に放牧が利用できると注目を集めています。放牧酪農が注目される背景を説明した記事は下記のリンクから是非ご覧ください。
いま話題の放牧酪農!トレンドの背景と実現までの手順について調べてみた今回はもっと放牧酪農の基礎基本を学ぶということで、放牧方法の種類やメリット・デメリット、日本の放牧酪農の情勢を語っていきたいと思います。
放牧の手法は、主に3種類あります。
さて、早速ですが、放牧酪農とはどんな酪農手法であるのか、その種類から説明していきます。
●パドック放牧
こちらは放牧場というよりも、牛たちのための運動場と言っても良いかもしれません。牛舎の周りに柵で仕切られた小規模の広場があり、土地面積が小さい中でも始めることができるのが特徴です。しかし、多くのパドックで見られる現象として、水はけが悪いことがあげられます。降雨や融雪後は、水はけが悪いせいで、牛たちがドロドロの足元の中、立っている姿をよく目にします。パドックでは、植物のように水を吸収してくれるものがない場合がほとんどですので、その土地の排水能力がないと管理が大変です。
ですが、完全牛舎飼いと比べると、牛たちがより自然に近い場所(=外)で遊べるので、ストレスが溜まりにくく、成績向上にもつながるというお話しもあるようです。自分の所有する土地の管理ができる人はまず小規模で初めて見るのも有りかもしれませんね。
●山岳放棄地放牧、耕作放棄地放牧
さて、こちらは放棄地を活用するタイプです。昨今注目を集めている酪農放牧の手法ですね。農林水産省によれば、日本での放棄地の発生原因は「高齢化や少子化による労働力の低下、生産性の低さ、土地条件が悪い」などが上げられ、令和元年の荒廃農地は全国で約28.4万haとなっています。放棄地をそのままにしておくと、病害虫。鳥獣被害の発生、要排水施設の管理の支障など、様々な問題が出てきますので、こちらの土地を有効活用することが急務になっています。
その方法の一つとして、放牧酪農が注目されているのです。牛を放し飼いにすることで、そこに生息する野草を食べてもらったり、足で土地を踏みつけてならしてもらったり、環境に配慮し、社会問題の解決につながる方法として一石二鳥の放牧酪農なのです。しかし、一方でインフラ面が整ってない場合が多く、防疫や給水場の確保、牛への獣被害対策など計画を綿密に立てる必要があります。
また、基本的に野草を食べてもらうので、餌の質という点では安定性が無く、出荷される肉や生乳は独特の風味があり、市場での評価も人によって異なることが多く、万人受けはしないことがほとんどです。市場成績を残すという意味では非常に難易度が高い手法であると言えるかもしれませんが、「日本の社会問題である放棄地を使って育てた牛」という特徴を前面に押し出すことによる、共感マーケティングの手法を使っている牧場さんも多い印象があります。
●集約放牧
さぁやっと、皆さんが想像している「THE 酪農」の手法です。
中規模~大規模の牧草地を利用し、適正な「牧草地管理」のもと、牧地をいくつかに区切ります。一つの牧地にずっと牛たちを居座らせるわけではなく、栄養価の高い牧草がなくなった場合や、気候状況などに応じて、牧地を移動させていくのです。
ここからわかるように、集約放牧酪農は牛を牧草地に放し飼いしているわけではありません。人間による牧草地の管理が非常に重要になってきます。牧地を移動する際に、新しい牧地で牧草が生えていない状況になっていれば、牛たちは十分な栄養を確保することができず、生乳生産にも影響を及ぼします。牛たちは変化を嫌う生き物なので、牧地ごとにできるだけ変化を作らず、牧草の質、土地の整備などの管理も重要なミッションです。
一方で、アニマルウェルフェアや環境への配慮という面では持続可能な酪農として最も優れた手法です。ニュージーランドやヨーロッパ圏では、こちらの手法を用いている農家が多く、高い収益性を実現しています、日本は集約放牧を確保できるほどの土地が少ないというから、昔から牛舎飼いをメインに家畜飼養を行ってきましたが、昨今輸入飼料の高騰などに伴い、自給自足ができる酪農ということで、集約放牧も注目されている手法の一つです。
放牧酪農のメリットと運用の難しさをまとめよう
さて、放牧酪農の種類に関しては、上記の3つということで理解していただけたかと思いますが、では実際に放牧酪農を行うメリットと運用の難しさとはどのようなものがあるのでしょう。先ほどの概要説明にもざっくりと書いていますが、この章でわかりやすくまとめていきましょう。
●放牧酪農のメリットとは?
1 環境にやさしく、持続可能性を実現できる。
放棄地放牧酪農や集約放牧に関してのメリットと言えるかもしれません。牧草などの植物の成長は、二酸化炭素の吸収や土壌の有機物の蓄積が促進されるため、温室効果ガスの吸収能力を高めることも期待されます。
また、広大な放牧地を必要とするため、自然な生態系を保護するために未利用の土地を利用することができます。放牧地の適切な管理を行うことにより、土壌の健全性を保ちながら、持続可能な土地利用を実現することができます。例えば、牛たちが広い範囲を移動することにより、飼料の集中排泄や糞尿の集積を防ぐことができます。これにより、放牧地や水源への汚染を低減することができます。
2 コスト削減
放牧酪農では、自然の放牧地で草を食べさせることが一般的です。これにより、飼料を購入する必要がなく、飼料調達に伴うコストを抑えることができます。また、牛たちは、直に生えている自然の植物を食べるので、自然に近い形で飼育され、ストレスを軽減し、健康な状態で成長することができます。故に、健康管理のための補助的なコストが低くなることがあります。例えば、自然の草を食べることにより、飼料添加物の使用を抑えることができるため、飼料添加物のコストを削減することができます。
また、給餌という概念がないため、日常の労働コストを削減することも可能です。また、放牧地の広がりがあるため、動物の運動や生活環境を管理する必要が少なく、人的な介入を減らすことができます。
●放牧酪農の運用の難しさとは?
1 牧草地や放牧地の管理の難易度が高い。
牧草地や放棄地は自然の中で形成されるため、土壌の性質や環境条件が非常に複雑であることがあります。放牧酪農の土壌環境を分析する際には、自然の環境条件や気候の変動、地形の特徴などを考慮しなければならず、これらの要素を正確に把握することが難しい場合があります。
また、季節や気候の変化によっても土壌の状態が変化するため、定期的に分析を行う必要があります。さらに、草の食べられ方や動物の排泄による肥料の影響、微生物の活性、栄養素の循環など、土壌環境が動的に変化する要因が多いため、それらを正確に評価するのが難しいとされています。
解決法としては、適切な専門知識や技術を持った専門家の支援を受けることで、より正確な土壌環境の分析が可能となります。分析の手間や時間は専門的な知識や技術が必要とされるため、一般的な農家にとっては難しいとされているので、積極的に学会に参加したり、専門家のコンサルを雇ったりする必要性がある場合があることは抑えておくべきでしょう。
日本の放牧酪農の実態
これまで語ってきたように注目を集めている放牧酪農ですが、実は日本の酪農家の中で、放牧をしているのは20%もおらず、普及までには時間がかかっています。
そこには、放牧酪農の導入の難しさも課題となっています。放牧酪農は、牛舎内飼育に比べて、広い放牧地を確保し、管理する必要がありますが、日本は山岳地帯が多く、海外のような広い土地を簡単に確保できないのも現状です。また、放牧酪農を検討する農家に対しての、情報の発信や支援制度の充実、先進事例の紹介なども日本国内で活発に行われていません。
さらに、消費者側に対しても、放牧酪農のメリットや魅力を啓蒙することが重要です。消費者の関心の高まりや、持続可能性や環境保全への関心の高まりを背景に、放牧酪農製品に対する需要が増える可能性もあります。そのため、放牧酪農製品の付加価値を高めるためのブランディングや情報発信が必要です。
これらの課題を克服するためにはもはや酪農家一人で行うことは不可能です。特にブランディングの要素が関われば、そこに対応できる外部の協力者は必要不可欠となります。
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